認知症の人が交通事故を起こすとどうなるのか

今年、2016年3月から改正道路交通法が施行されました。改正の内容は75歳以上のドライバーが認知症により起こしやすい違反をした場合、認知症の検査を行い認知症と判断されると免許停止、取り消しとなるよう変更されました。認知症により起こしやすい違反というのは一方通行の逆走、信号無視、一時停止不履行などがあたるそうです。また認知症については、70歳以上で免許を更新する歳に認知テストを行い、その結果次第では免許停止や取り消しとなります。

認知症の方が免許証が手元にないからといって絶対に運転しないかというとそんなことはないようです。免許返上や取り消しとなり無免許であることを覚えておらず車と鍵があれば運転するそうです。法律で同居家族が車の所持を禁止する、そんなことはできませんので、認知症だから免許停止としても、車を運転させない、ゼロにすることは難しそうです。

実際に認知症の方がどのくらい事故を起こしているのかというと、2015年のデータでは認知症の人が交通事故を起こし、免許取り消しとなった件数は78件あり、そのうち人身事故は27件。残りの51件は物損事故でした。交通事故は2016年で年間57万件以上起きていて、(必ずしも事故とは関係ありませんが)免許が取り消しとなった方は3万6千人ほどいます。

全体の事故件数、取り消し件数と比較すると認知症が原因で事故を起こすというのは事故原因としてはかなり少ないといえるでしょう。そのため、現在のところ認知症が原因で起きた事故に対する公的な救済は設けられていませんし、現状では民間の保険で対応すべきだろう、という方針です。

しかし、事故当事者にとっては割合が1万分の1であろうが関係ありません。しかも、認知症のドライバーは必ずしも免許を持っているわけではないので、免許がない場合は相手側は任意保険に加入していないことになります。こういった場合、被害者はどういった対応が出来るでしょうか。

車同士の事故の場合

事故の相手方が認知症で既に免許を返上済みであるにも関わらず、免許がないことを認知できずに運転し事故を起こした場合、当然任意保険には加入していません。しかし、被害者保護の観点から相手方の任意保険を適用することが出来ます。面白いことに無免許状態でも保険会社は過失割合を算定しますので、無免許側の過失が0という場合も起こり得るそうです。相手が無免許であっても自分が任意保険に入っていれば相手側の損害を保障できます。

歩行者や自転車の場合は

車同士の事故であれば任意保険に入っている可能性はありますが、歩行者や自転車の場合は任意保険に入っていない可能性の方がずっと高くなります。その場合は個人賠償責任保険で対応できる可能性があります。

個人賠償責任保険

個人賠償責任保険というのは、自転車で事故を起こした、子供が友達に怪我を負わせた、物を壊した、というような場合に適用できる保険です。車でいえば任意保険のようなものです。火災保険や自動車保険(任意保険)に自動で付帯する特約だったり、クレジットカードに特典として付いているケースがあります。

この個人賠償責任保険で認知症の家族の行動に関しても保証されるケースがあります。JRが認知症の家族に対し損害賠償を求め裁判を行ったことが切っ掛けとなり、認知症についても保証するように規約を変更した保険会社が多くあります。

個人賠償責任保険に加入していれば、認知症が原因となった交通事故でも対応できる可能性があります。全ての個人賠償責任保険が認知症の家族に対しても適用されるわけではないので注意が必要ですが、家族に認知症の方がいる場合は、個人賠償責任保険が付帯しているか、保証内容をもう一度検討してみてはどうでしょうか。